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大阪高等裁判所 平成6年(ネ)1358号 判決

控訴人・附帯被控訴人(以下「控訴人」という。)

今中安彦

右訴訟代理人弁護士

岡村久道

堀寛

被控訴人・附帯控訴人(以下「被控訴人」という。)

山本泰

右訴訟代理人弁護士

勝部征夫

髙橋司

桑森章

主文

原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

本件附帯控訴を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  申立て

一  控訴人

主文と同じ。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  附帯控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。

控訴人は、被控訴人に対し、一〇九万九七一〇円及び内九九万九七一〇円に対する平成四年四月二八日から、内一〇万円に対する平成五年一月二九日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。

第二  事案の概要

原判決「第二事案の概要」に摘示のとおりであるから、これを引用する。

第三  証拠

原審・当審記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四  当裁判所の判断

一  本件事故の状況、被控訴人の受傷及び治療経過等については、次に付加、削除、訂正するほかは、原判決「第三争点に対する判断」一(原判決三枚目表一一行目から同四枚目裏一〇行目まで)の説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決三枚目表一一行目の「一三、」を削り、同末行の「六、」の次に「検乙七の1ないし6、」を加え、同行の「被告本人尋問」を「控訴人及び被控訴人各本人尋問」と改め、三枚目裏一〇行目の「歩く」の前に「人の」を加える。

2  同四枚目表五行目の「外見上認められなかったが、」を「外見上認められなかった。」と改め、同行の「バンパーの内側」から同七行目の「すき間ができていた。」までを削る。

同一〇行目の次に改行して次のとおり加える。

「被控訴人は、本件事故により原告車の後部バンパーの内側にある鋼鉄製のフォースメントの中央部分に凹みが生じた旨主張し、東モータースの工場長石田裕康が、本件事故後に原告車を点検した際、フォースメントの中央部分が幅一四、五センチメートルにわたって変形し、樹脂製の部分との間にすき間があったことを現認したこと(甲一三)が認められるけれども、前認定の衝突の態様に加えて、右フォースメントの変形部分はナンバープレートの取付位置付近であるのに、ナンバープレートにはなんら損傷の形跡がないこと(甲一三、検乙一ないし三)などに照らすと、原告車の後部バンパーのフォースメントの損傷が本件事故に起因するものかどうかは疑わしく、本件事故との因果関係を認めるに足りる的確な証拠はない。」

二  被控訴人の症状と本件事故との因果関係について

1  前記認定の本件事故状況によれば、被告車は、時速約四キロメートル程度の速度で原告車に追突したこと、控訴人は、被告車が原告車に追突するのとほぼ同時にブレーキをかけたこともあって、原告車が前方に押し出されたことはないこと、原告車と被告車には、本件事故による損傷部位は存在せず、修理の必要もなかったこと、本件事故当時、被控訴人は、シートベルトを着用しており、本件事故によって、被控訴人の後頭部が運転席の枕に衝突していないことが認められ、さらに、本件事故直後、被控訴人は原告車内から後方を振り返り、被告車内の控訴人に歩道に寄るように指で合図したこと(控訴人、被控訴人各本人)からすると、本件事故によって、被控訴人の身体に加えられた衝撃の程度は、極めて軽度のものであったと解され、このような追突による衝撃では、通常の場合、追突された車両の乗員の身体に傷害を生じさせることはないことが認められる。

そして、前記(被控訴人の受傷及び治療経過等)の認定によれば、被控訴人に対する頸部のレントゲン検査の結果では、頸椎間の直線化、不安定性が認められたものの、ジャクソンテスト、反射はいずれも正常であったこと、しかも、被控訴人は、連休であったとはいえ、本件事故の翌日から約一週間通院治療を受けなかったこと、第二回目の通院以後、平成四年九月一二日に中止となるまでの被控訴人に対する治療内容も、専ら頸椎牽引とマッサージによる保存的治療のくり返しであったことが認められる。

ところで、右の他覚的所見である頸椎間の直線化、不安定性は、頸椎捻挫に関係なく見られるもので、必ずしも事故によって発生するものではなく(乙一〇の1、一二)、直ちに本件事故によるものとはいい難く、これを認めるに足りる的確な証拠もない。

2 右によれば、辻外科病院の診断結果、すなわち被控訴人の症状は専ら被控訴人の愁訴に基づくものであるといわざるを得ず、本件事故当時における被控訴人(昭和一六年一一月二九日生)の年令も、これを否定する資料として十分とはいえない。したがって、被控訴人主張の損害は、いずれも本件事故との間に相当因果関係があるものと認めることはできないというほかない。

三  以上の次第で、その余の点について判断するまでもなく、被控訴人の本訴請求は理由がないからこれを棄却すべきである。

よって、現判決中右請求を認容した部分は失当であるからこれを取り消し、被控訴人の右請求を棄却し、附帯控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官島田禮介 裁判官大石貢二 裁判官羽田弘)

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